天心が愛した五浦
福島県との県境にある北茨城市。断崖絶壁の突き出た岬に、奇怪な岩が海から頭を見せる五浦海岸に「六角堂」はあります。明治の美術家であり思想家である岡倉天心が、横山大観や下村観山などを呼び寄せ、日本画の近代化に向けた美術活動を指導した“近代日本画の聖地”とも言いうべき場所です。五浦海岸の景色をこよなく愛し、日本美術院の再興をきっかけにこの地に作られた天心の邸宅、そして六角堂。東日本大震災の大津波によって流失してしまいましたが、海底に沈んだ実物をできるだけ回収し、登録有形文化財のままの再建を果たしました。さらに徹底して創建当時の姿を追求し修復された六角堂には、アジア文化を形成する場所としてこの地をデザインした天心の想いが込められています。
入江がつくる風景
五浦海岸には名前のとおり、小五浦、大五浦、椿磯、中磯、端磯という5つの入江があります。この一体の奇岩は、中国の文人画などに登場するものと同質のもので、天心がこの地を選ぶ一つの要因であったとされています。また、六角堂北側の崖地に築かれた石垣と階段は、インドの沐浴場を模したという説もあります。天心はこの美しい入江に、アジアの文化的つながりを表現したのかもしれません。
地魚を味わう
天心は、「五浦釣人」と名乗るなど、五浦での釣りをこよなく愛していました。天心丸という釣り船に乗っってよく釣り糸を垂らしていたといいます。魚といえば「あんこう」で有名な地域ですが、五浦周辺には、近くの漁港で水揚げされる新鮮な地魚が味わえる人気店が点在します。ぜひ海の恵みをご堪能ください。
六角堂と日本美術
これまでに何度も改修されてきた六角堂は、2012年に、創建当時の姿に限りなく近い形で復元されました。いぶし銀に輝く屋根瓦、再建当時の天心と同じ150歳の老杉、天然のベンガラ、そして海底から奇跡的に発見された水晶が納められた宝珠など。飛び石の配置に至るまで「茶」の世界観が表現されているという六角堂。五浦で生きた天心や大観たちの想いをなぞるように、ゆっくりと五浦を訪れてみてはいかがでしょうか。